
母屋・増築部
蔵
庭・外構
ⒸNorihito Yamauchi
施工写真資料
長い時間に向き合う
鶴岡八幡宮へ続く若宮大路に建つ、1927年竣工・石場建て木造伝統構法2階建ての酒屋兼住居を飲食店に改修したプロジェクトである。既存建物は母屋と蔵からなり、2006年に登録有形文化財・鎌倉市景観重要建築物に指定されている。改修に際しては、保存活用計画書を作成し保存建築物に指定の上、建築審査会の同意を得ることで基準法が適用除外され(法第3条第1項第3号)、工事許可が下付された。登録文化財かつ防火地域での取り組みは前例がなく、それにより外観・内観共に以前の姿を残すことができた。構造・防火の安全性は建築基準法同等以上を求められるため、京都市包括同意基準の参照、職員の消火訓練実施など、ハードとソフトを組み合わせる計画とした。
実測調査と耐震診断により、事後改変部分、現状の耐震特性に加え、雨漏りなどの建築計画的弱点を把握することができた。また、特筆すべきはこの建築が竣工当時から同じ家族により、同じ用途で、現役で使われ続けていることであった。それらの結果、構造設計は全体的な力の流れの健全化を重視し耐震補強する方針に、意匠設計では、コンバージョンを経てもそれぞれの部屋の使われ方を大きく変えないよう意図した。
耐震補強は軽量化,壁の置換,見え隠れへの補強,見えがかりへの補強という優先順位で検討した。見えがかり部分は鉄骨柱,ステルスブレースなどを用いて空間への影響を最小限に抑えている。また柱の浮き上がりを拘束するため新設基礎を計画し、基礎と柱脚を床下で鉄骨梁にて緊結している。よって見えがかりとなる鉄骨柱は既存の軸とは必然的にずれて配置することとなる。このズレを注意深く計画することで、柱・梁による構成や視線の抜けなど、日本建築らしい軽快さや開放性をより強調させる意匠となった。また、客室はL字の角部分に増築することで、庭を囲んだ一室空間を実現した。増築部・新設部各所の仕上げでは、既存建物からの時間の流れを繋ぐよう「錆」を採用し、新旧の素材が対比されず、共存するように考えた。長い時間を経てきた建築の固有の条件を読み解き、そこに添えるように要素を加えることで、現代の性能を持った、生きた建築の総体として「三河屋本店」を使い続ける準備をしたのである。
No.247WType飲食店Year2026Role建築設計監理Location日本・神奈川Linkmikawaya-kamakura.jp