くすのきほいくえん

保育園が迷惑施設扱いされるようになって久しい。近隣住民の反対により計画が頓挫することも珍しくない。 残念なことであるが、社会問題として捉える前に、一設計者としてこの保育園のあり方に向き合うこととし、同じ子どもの声でも、騒音ではなく、愛くるしいものに感じられるような建物を目指した。
当敷地は、数件の戸建住宅が並ぶ私道に接道する。向かいには5階建のマンションが建っている。木造3階建の当建物は、周辺の住宅群から突出した印象にならないように、3階より上の外壁は屋根材で仕上げる。また、耐火構造の仕様規定により壁や柱に強化石膏ボード21mm両面2枚張りが必要となるが、重々しい印象にならないように、外壁サイディングの正面と側面で色を変え、薄いパネルをパタパタと組み立てて作ったような軽快な見え方となるようにした。
内部は子どもの居場所の集積として設計している。北海道下川町産トドマツを使った柔らかい下見板の腰壁に囲まれた各階の保育スペースには、収納を兼ねた「小さな居場所」がある。また、階段室には座れる窓台を設け、子どもたちが階段や窓辺に座って本を読んだり聞いたりできる「集まる居場所」をつくった。外からは窓辺に座って本を読む子どもたちの後ろ姿が見える。小さな居場所と集まる居場所を複数箇所設けることで、子どもたちがそれぞれに好む過ごし方を選択することができる。3階の4.5歳児保育室は高天井を珪藻土左官で仕上げており、年齢が上がるにつれて、空間のスケールと質感が向上し成長を実感する。
子どもたちが心身ともに健康的に過ごし、乗じて近隣住民の方々に愛される保育園になることを願う。

建築概要

用途:保育所
構造:木造在来工法 耐火建築物
階数:3階建
設計監理:株式会社アラキ+ササキアーキテクツ
構造:アービア設計事務所
施工:Tree to Green/山内工務店
敷地面積:116.47m2
建築面積:77.96m2
延床面積:205.38m2
建蔽率:66.94%
容積率:161.16%


No.260WType保育所Year2021Role設計監理Location日本・東京都Published「architecturephoto」06/2021